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拙者スレ

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

――時は、戦国。

闇の中に、刃の打ち合う音が閃く。
ここはとある国の山奥。
余り手入れされていない木々が覆う陰鬱とした場所を、薄く雪が覆う。
薄く白い敷物の上を、幾つもの足跡が踏み荒らし赤が穢していく。
汚い毛皮を纏った男が振りかざした山刀を刀の鍔で受け止め下方に流すと、
空いた腹部に蹴りを入れてから、少年は周囲を見渡した。
すぐ近くに、兄とその従者たる年配の男を認めて、少しだけ息を付くが、
すぐに意識を対峙する男へと引き戻す。
体勢を崩した男が山刀を引き戻して、こちらに突きを入れるのを半身になって躱し、
切迫して斬撃を送る。

少年は、兄と年配の従者との三人で旅をしている。
兄は武道に優れており、故に様々な道場から師範として招かれる事が多かった。
少年も彼の指導により、まだ元服前ながらもかなりの腕前にまで成長していたが、
修行のために兄の旅に付きそう事が多かった。
とある冬の事、兄は少年と従者を伴い、山を1つ越えた所にある村にまで指南の旅に出た。
その帰り、滅多に風邪を引かない兄が熱を出してしまい、とりあえず山の所々に設置されている、
旅人が身体を休める為の小屋にて休息する事にした。
山小屋の周囲を人が取り囲んでいると認識したのは、誰が最初だったか。
押し殺した息と緊迫した空気に気づいた三人は、なるべく気づいたことを悟られないように、
物音を立てないように気を付けながら周囲を片付けると、刀を何時でも抜ける状態にしてそこを出た。
程なく、彼らを山賊らしい数人の男達が取り囲む。
彼らは通行料として、少年の兄を要求した。兄は端麗な容貌をしており、
それが欲しいと下劣な欲望をぶつけて来る。
当然ながら兄がそれを拒否するや否や、山賊達は刀を抜き斬り合いになった。
兄は体調不良により普段の力が出せず、少年も兄と戦闘に不慣れな従者とを補佐しながらの戦闘故、
なかなか相手を倒す事が出来ない。
足場も雪と泥でぬかるみ、木が視界の邪魔をするなどと決して良い状態ではなく、
戦闘は長引いていた。

山賊達の頭領らしき髭面の男と切り結んでいた兄が、突如屈み込んで大きく咳き込んだ。
「兄上っ!」
すぐ近くにて別の山賊に立ち向かっていた少年が、突風のようにそちらへと突撃し、
兄に向けて薙がれた槍先を弾き飛ばす。
「すま、――…ん…」
兄の表情には、疲労の色が濃く浮かんでいる。常よりも朱い皮膚と
肩が早く上下する様に少年は唇を噛むと、兄を護りつつ体勢を取り直してから、
髭面の男に声を投げ掛けた。

「話があるッ! 一旦、戦を取り止められよッ!!」
少年の高い声に、髭面の男は半眼になり嘲笑の笑みを刹那零す。
が、周囲を見渡すと、他の山賊達も傷を負い疲労が強くなっている様子であり、
髭面の男は舌打ちすると手を掲げて、攻撃の一旦中止を周囲に伝えた。
やがて、幾つもの殺気が、少年と兄、そして従者を取り囲み直す。
それに臆する事なく、少年は髭面の男に語り掛けた。
「貴方達の目的は兄上との事ですね。確かに兄は、武道に優れる上、
身内から見ても麗しい容貌をしていると思います。
欲しくなるのも道理でございましょう」
当然だろう、と云わんばかりに頭領らしき男が鼻を鳴らす。
「ですがこちらにとっても、兄上は大事な者。
それに、今は病の身の上故、無理をさせる事など出来ませぬ」
突然話を始めた少年の意図が掴めず、兄は苛立ちに眉根を寄せた。
構えた刀の柄を強く握るが、そこに従者の手が肩に伸びて、かろうじて押しとどまる。
「そして、貴方達もこれ以上血を流す事は望んでいない筈」

静かな声がその次に紡いだ台詞に、台詞に、思わず兄は全てを忘れて
叫びそうになった。が、従者が肩を強く掴む力に、
それをかろうじて自分の内だけに押し止める。

「故に…今回は、拙者が参りましょう。ですから、兄上は逃してくだされ。
…確かに拙者は、兄に比べれば劣る所ばかり目立ちまする。
されど、同じ血を受け継ぐ身なれば、暫しの間の慰みに位なら、なるのではありませぬか?」
荒れ狂う兄の心など素知らぬ振りで、少年は言葉を続けた。
「この条件を飲むのならば、そして兄の安全を確保してくれるのならば」
自分の手に握った、血に塗れた刀。それを地面に放り投げる仕草をする。
「抵抗を止めましょう」
やや低めた声が、何処か甘く誘う台詞を紡ぐ。
まだ幼さの影は残るものの整った顔の輪郭を、その真意を、
男達の視線がまさぐるように巡った。
血走った瞳、欲望の滾る瞳、幾つもの眼差しが少年に注がれる。
それに気圧される事なく、少年は云う。
「この条件が飲めないのならば」
唇の片方が、ほんの少しだけ上がる。顔の半面に塗された血飛沫が
唇の端を赤く染め、唇に紅を差す。
「屍になるまで抵抗致しましょう。
もとより武士の子でありますれば、死ぬ覚悟など幾らでも持ち合わせております故。
その代わり、あなた方も生きて戻れるとは思いますな」
どうしますか? と醒めた眼差しで、己の血まみれの刀と、
男達の顔を交互に眺める。
誘惑するように、刀の切っ先がゆらりと揺れた。
少年から漂い来る気に押され、男達が息を呑む。

「……!」
兄が少年の名前を呼ぶ。
が、早い息と掠れた声は、不明瞭に空気を揺らすだけで音を成さない。
しかし少年は、そちらを振り返ると、小さく頷いてみせた
「兄上、拙者、妊娠するでござる」
一年前に比べて背は大分伸びたとはいえ、まだまだ子供じみた響きの声が紡ぐ台詞。
それは少年が今よりも幼い頃に、兄が投げた戯れ言のひとつだった。
男女のみならず、男でも交わりを重ねれば子供を身ごもる事があるかも知れないと
笑いながら教えた、その時は冗談だった言葉が、今は重みを持って兄の胸を圧迫する。
「だから、今は兄上は逃げてくだされ。拙者の思い違いでなれば、
目的故に拙者を彼らがすぐに殺す事はありますまい」
「そんな…お前を犠牲にさせるなどと」
「助けに来て、下さるでしょう? すぐに」
焦燥感を滲ませる兄の声とは対照的に、山賊達と対峙する時とは異なる、
信頼しきった穏やかな声が兄に向けられる。
刹那のみ、表情が柔らかなものへと変化した。
それに悲痛な表情を浮かべて、兄が頭を何度も振るように、視線を揺るがせる。
が、少年の固い決意が満ちる表情を、その決意を止めさせる事は出来なかった。

熱と今の話の内容とに冒され茫然とする兄を横に、少年と髭面の男とが言葉を交す。
程なく話がまとまったようで、髭面の男が指図すると、
彼の側近らしき男二人をのぞいて、男達はその場から立ち去り始めた。
彼らの姿が木々のむこうがわに消えるのを確認してから、
少年は血糊を懐紙で拭い刀を鞘に収め、それを従者に渡す。
そして、二人の顔を見ないようにしつつ、唇を噤んだまま
髭面の男の方へと歩いて行こうとした。

「絶対助けに、行く…」
むくつけき男達に囲まれた小さな背中に、兄が呼び掛ける。
が、すぐに咳き込んでしまい従者に横から支えられた。
「拙者は大丈夫でござる。だから…」
少年は振り返り、ゆっくりと言葉を口にする。
が、胸の奥から別れたくない、という感情が沸き上って口に上りかけ、慌てて口を噤む。
それから少年は、従者に向けて頭を下げた。
「兄上を、頼みます」

少年が傍に寄ると、側近の男二人がその両腕をそれぞれ抱える。
髭面の男が歩き始めると、側近もすぐにその後を追い、
彼らに引きずられるようにして少年も歩き始めた。
その背を、まっすぐに伸ばされた背中と後ろに括られた髪の揺らぎが、
雪と鬱屈とした緑の中に融け込み消え入るまで、
兄と従者はその姿を見送っていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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