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侍チャソプル 琉球×眼鏡

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    |  アニメ「侍チャソプルー」の琉球×眼鏡だってさ
 ____________  \         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  だらだら長くてごめんね。
 | |                | |            \
 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
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※一部、ノーマルカプぽいシーンがあります。嫌いな人は注意して下さい。

見るからに値の張っていそうな寝巻きの光沢のある絹の、
その白さと、仁の肌色は拮抗している。
それが訳もなく不愉快で視線を自分の手元へ落とせば
仁と同じ寝巻きの下から、刺青を纏った自分の浅黒い腕が見えた。
もう片方の手で、手首の刺青を擦ってみる。仁の手首にある玉の腕輪が思い出された。
こんな、肌に吸い付くように滑らかな着物は落ち着かない。
こんな豪奢な部屋で、こんな良い着物を着て、なんの苦労もなく贅沢な食事をするようになって
もう10日近くになるが、無限は未だに馴れることができずにいた。
翻って、同じ部屋で同じように過ごす仁の方は、こんな暮らしにもこれといって違和感がないようだ。
女中に傅かれても怯まず、だだっ広い屋敷内で道に迷うこともなく、
茶会に呼ばれれば一通りのことを作法どおりに卒なくこなす。
蒲団の傍らに正座して、月に顔を向けて瞑想している仁の横顔を
無限は今度は視線だけで盗み見た。
―――このヤロウを、こんなに遠く感じたことはねぇ…
そんなことを思う、やけに感傷な自分の心が気に入らなくて無限は立ち上がった。
わざと足音を立てて仁の蒲団へ上がり、大の字に寝転び、仁の腿に手を置いた。
仁が顔を僅かに動かし、無限の手を見る。
無限は仁の裾の合わせ目から掌を中へ這入らせた。
仁は身を捩って逃れようとするので、素早く起き上がって腕を捕まえ、
引き寄せると同時にぐっと自らの顔を突き出す。
二人の顔が吐息が掛かるほどまで近付く。

仁はぴくりと眉を動かし、黙って無限を睨みつけている。
無限は片方の掌で仁の腿をゆっくり撫でながら、手首を掴んでいた手を放し、
仁の顔から眼鏡を取り上げた。
開放された仁の手が眼鏡を追いかけて伸ばされれば、無限はにやりと笑って眼鏡を高々と掲げ、
「壊れちゃ困ンだろ」
一つ向こうの蒲団の上へ放り投げた。仁はその放物線を眼で追って、溜息を吐く。
「…お前がこんなことをしようとしなければ、壊れる気遣いなどないものを」
口調はいかにも億劫そうだが、
腿を蹂躙する無限の掌から、仁が最早逃れようとしていないことは、無限にはよく判っている。
「スカしてんじゃねぇよ、お前だって好きなんだろ、こーゆーコトが、よ…」
言葉に被せて無限は仁の唇に噛み付く。仁は目を閉じて唇を無限に差し出した。
腿にあった手で寝巻きの帯を解き、そのまま無限は仁を蒲団へ突き倒した。

■■■■■

10日ほど前、一膳飯屋で有り金叩いて食事をしながら、
差し当たって今夜の宿をどうするかと、いつも通りの相談をしている最中、
四方から不穏な視線を感じていた。
チラリと見上げれば無論、仁も同じことに気付いているようで、風だけはそれを知らない。
店を出てから、他愛ない会話の言葉尻を捕まえて風と言い争い、
自然な流れを装って脇道へ逸れたら、途端、10人弱の侍連中に取り囲まれた。
ほぼ同時に、少し離れた所で「なんなのよアンタ達!」と、風の悲鳴。
外にも仲間がいたのなら、二手に分かれたのは失敗だったかと無限は舌打ちして、
侍どもと距離を測りつつ、仁と風の行った方へ走り出す。
すると侍のひとりが鋭く
「刃向かうと為に成らぬぞ!」
と叫んだ。言われた無限の眉が、片方だけすぅっと上がり、唇が不穏な微笑みの形に歪む。
無限のそんな表情の変化を見たとでも言うように、まだ無限の顔を見ていないはずの仁から
「余計な面倒は起こすな」
と低い声が掛かった。

見れば仁は、刀を右手一本で構え、空いた左腕で風を抱えるようにしっかり抱き寄せている。
十数名の侍にぐるりを囲まれている状況で、曲がりなりにも用心棒を頼まれている身ならば、
その雇い主である風を守るのに、仁がそういう体勢を取ることになんの理不尽もない。
頭ではその理屈を判っても、無限の心は面白くなかった。ものすごく、面白くない。
「…るッせぇんだよ、俺がどいつとどう斬り合おうと勝手だろうが!」
言うなり無限は手近な侍に踊り掛かり、それを合図に他の侍どもが一斉に3人に斬り掛って、
往来は一瞬にして修羅の巷と化した。
風の為に片手を封じられた仁の耳に、侍たちの「お嬢様!」という悲痛な叫びが聞えて来て、
仁はなんだかわからないまま、己の刀の刃を返していた。
そして無限にも
「おい、殺すな!」
と声を掛ける。その真意は自分でも判らない。
ただ、仁と風に向かって来る侍どもの目が、何かひどく切羽詰っている気がして、
「お嬢様」という呼びかけが切ない気がして、仁は彼らを殺すのが憚られたのである。
そんな勝手な感情を、無限にまで押し付けて、受け入れられるとは思っていなかったが…
「あァ!?なんだそりゃ!」
案の定文句を言った無限だったが、
しかし斬り掛かって来た侍の肩へ振り下ろそうとしていた刃を寸でのところで切り返し、
代わりに柄尻で相手の喉を突いて気絶させた。
仁も風を片腕に庇ったまま、峰打ちで応戦し続け、
ほどなく道の上には、無限と仁にのされた侍どもが屍のごとく累々と転がっていた。
今や相手方で刀を構えて立っているのは、最も年嵩の一人だけである。

するとその老侍はいきなり刀を捨てると、地面にガバと伏して3人に向かって土下座した。
無限はその顔を鉄板加工の下駄で蹴り上げようとしたが、風と仁に止められて渋々足を引っ込めた。
「話を聞こう」
という仁の言葉に促され、元いた飯屋に戻って聞いたところによると、侍の話はこうであった。
老侍は、なんたら言うお城の重役に仕えていて、その重役のお嬢様が半年前、神隠しに遭った。
重役と奥方は大層悲しんで塞ぎ込み、特に奥方は今では床に着いたきり
生死を彷徨うほどに弱りきって、精神も半ば壊れてしまっている。
近頃では怪しげな坊主や祈祷師やらを邸に呼んでお嬢様の行方を占わせることに熱中しており
インチキ坊主らに大枚を注ぎ込むありさまを見て、家中の者達はほとほと頭を痛めていた。
そんな折、家中の一人が、この城下町にやって来た風を見つけた。
風は気の毒なお嬢様に瓜二つだというのだ。
風をお嬢様に変装させて引き合わせれば、奥方の心も落ち着くのではないかと考えた彼らは
後先考えずに3人の後をつけ、襲い掛かったというのだが…
「そんなこと、ちゃんと訳を話してくれれば、あたし、協力するのに…」
風が困ったように眉を顰めて、老侍と仁、無限を交互に見る。
老侍はひたすらに頭を低くして、「どうか、どうか…」と言うばかり。

「ケッ。だーからキライなんだよ、おめーらみたいなサムライってのはよ」
老侍の支払いと思うからか、ここぞとばかり酒と食い物を注文しまくり、食べ散らかしている無限が、
魚の骨と一緒に言葉を地面に吐き捨てた。
風は慌てて「ちょっと、無限」と声を掛けるものの、
いきなり襲い掛かるという手段に打って出た老侍たちの言葉を、どこまで信じていいものか迷っている。
「…大方、風に正直に事情を話して、一緒にいるわたしたちのような得体の知れない浪人物に
 ご家中の内情を知られるのを厭われたのであろう」
感情のない声で仁が言うと、図星を突かれたというように老侍の額に汗が滲んだ。
無限がもう一度「ケッ」と唾を吐く。
「しかし、生憎と我々は、武家社会のどんな事情にも、興味はない。
 そちらの主君の奥方がどうなろうと、わたしの与り知るところではない」
老侍がハっと顔を上げた。風も泣きそうな顔で仁を見上げる。
無限は切れた眉をぴくりと動かし、ゆっくりと視線を移して、仁の表情を読もうとした。
仁は眼鏡の中から静かに風を見下ろし
「あとは、お前次第だ」
と言った。

結局、風はお嬢様の身代わりになることを承知して、
その代わり無限と仁の二人も、客としてお屋敷に泊まることを承知させた。
以来10日近く、宿にも風呂にも食事にも全く困らないという、
これまでの3人からしてみれば、夢のような暮らしを続けているという次第だった。
風はすっかりお嬢様らしく着飾って、奥方に付き切りで看病しているらしい。
1年前に死んだという自分の母親に、奥方を重ね合わせているのかもしれない。
心も体も弱りきっていた奥方は、風のことを本物のお嬢様とすっかり信じ込んでいるそうだ。

無限と仁はといえば、広い客間に押し込められたきり、厠と風呂以外は外の空気を碌に吸っていない。
三度三度の食事は頃合になれば勝手に運ばれて来るし、菓子や煙草も切れ目がない。
頼みもしないのに立派な着替えを用意され、欠伸のひとつもすればすぐさま蒲団が敷かれる。
酒が飲みたいと言えば、昼日中でも酒肴の支度が整えられた。
家中の者にしてみれば、
見るからに不穏な浪人者の二人に、できる限り邸の中をうろつかれたくないのだろう。
一度など、無限が調子に乗って女が欲しいと言ったら、暫くして泣きそうな顔の女中が一人、
そっと部屋の中へ入って来た。
無限がさすがに面食らっていると、不愉快そうに眉間に皺を寄せた仁がスっと女中に歩み寄り、
耳元に何事か言い聞かせ、引き取らせた。
そして無限の方を見ずに、一言
「いい加減にしろ」
と低く言った。
「あいつらァ、俺達を黙らせておく為に必死なだけだ。
 いいじゃねえか、俺達のお陰でオクサマだかなんだかの命が助かるんだろ?
 口止め料なら、貰えるだけ貰って何が悪ぃんだよ」
不貞腐れたように言って、無限はごろりと仁に背を向けて寝転んだ。
「……人の弱みに付け込むなど」
侮蔑しきった仁の声が聞こえて、無限は寝転がったまま益々頑なに丸まった。

このお屋敷に来て間もなく、風、無限、仁の三人と、
あの老侍以下数名の家の者たちとの間で話し合いが持たれた。
議題は『偽お嬢様・フウの去り際をどう演出するか』である。
まさかフウが永遠に『お嬢様』の身代わりを務める訳にもいかないし、
かといって、やっと帰って来たと思った娘が、また理由もなく突然いなくなれば
奥方の容態はいよいよ悪くなってしまうだろう。
穏便にフウがこの家を去るには、奥方になんと言って説明するか。それを考えねばならない。
討議の結果、お嬢様たるフウは『他家に嫁ぐ』という形でこの家を出ることになった。
そして、相手は、仁と決まった。
その配役は、ほとんど迷う間もなくあっという間に決められていた。
無限と仁の二者択一では、無限に婿役なんて無理だということは無限自身承知していたから、
この配役も納得せざるを得なかった。
しかし無限は、心がザワついてどうにも面白くなかった。

そんな訳で数日前、仁は奥方に「お嬢様の婿殿」として引き合わせられた。
無限は「馬子にも衣装」と笑ったが、盛装した仁は、奥方の目には立派な「婿殿」に見えたらしい。
風の看病で体も幾らか持ち直していたこともあって、その日以来奥方は
仁を俳句の会やら茶会やらに引っ張り出して「お披露目」に余念がない。
仁にとってはいい迷惑だったが、
人前に出られるほど元気になった奥方の姿に、家中の者たちは涙を浮かべて謝辞を述べるし、
風にも「あとちょっとの辛抱だから!」と両手を合わせて拝まれて、
結局ズルズルと奥方に付き合ってしまっているのだった。

縁もゆかりもない人々の真ん中に座らされ、その話題の中心にされるなど
仁にとってはどんな暴力にも勝る拷問である。
人いきれにどっと疲れて部屋へ戻れば、酒臭い無限に「よぉ、色男」などと迎えられる。
自分のいない間、この男はずっと部屋に籠って飲んだくれていたのかと思うと、
眉間に寄った皺が更に深くなりそうなものだが…不思議なことに、そうはならないのだった。
それどころか、いつもと変わらずだらしない無限の風情を見れば、
過度の疲労に強張っていた体がふっと和らぐような心地さえ感じて、仁は内心戸惑っていた。
―――なぜわたしが、この男を見て、斬ろうと思いこそすれ、安堵などしなければならぬのだ…
内心の戸惑いを無表情の中に閉じ込めて、着慣れぬ五つ紋の羽織を乱れ箱へ脱ぎ捨てる。
すると顔の脇からふうっと良い香りがした。
顔を向けると、
「おらよ」
と、無限が杯に注いだ酒を差し出している。
酒は、決して強い方ではないが、嫌いではない。しかもこの芳香からして、これは随分上等な酒だ。
疲れにも後押しされて仁は勧められるままに杯を受け取り、一息に呷った。
熱く甘い滋味が、手足の指先まで一気に回っていく気がした。思わずフゥと息を吐く。
無限は仁の手から杯を奪い、片手に提げていた銚子から自分の分を注いで飲み干し、
新しいのを注いで、再び仁の鼻先へ突き出して寄越した。
無限と一つ杯で回し飲むことに、チラリと躊躇しないでもなかったが、
今自分はとても疲れているのだ、と、
疲れすぎて昂ぶり、酒でも飲まなければ眠れそうにないのだと、
自分に言い聞かせて、杯を受け取った。
そんなふうに杯をやりとりしていたら、あっという間に銚子は空になってしまい、
無限がチッと舌打ちして次を取り上げて引き返して来ようとするから、
「もう、いい」
と声だけで無限を押し留めた。無限が不満げに眉を顰める。
「あとは、着替えてからゆっくりもらう。…飲まねば、眠れそうにない」
背を向けたまま、顔だけ振り返って仁が言うと、
無限は銚子の載った膳の前にどっかと胡坐をかいた。

寝巻きに着替えて無限の差し向かいに座るなり
「シケた面してんじゃねぇか」
嘲うようなからかうような、無限の声が聞こえる。
隅に据えた行灯だけで照らした部屋は暗く、無限の表情はよく判らない。
しかし仁には、無限がどんな顔をしているか判った。
獣めいた三白眼で、こちらの顔を上目遣いに睨んでいるに違いない。そして唇には不敵な微笑。
手酌で飲もうとしたら、無限に銚子を取り上げられた。
「ま、こんな暮らしも、あと少しの辛抱だ」
言いながら、無限は仁に酌をする。仁は見えない無限の顔に視線を向けて、杯に口をつけた。
「…お前は辛抱などしていまい。毎日食い放題の飲み放題、極楽のような暮らしではないのか」
仁が言うと、無限の表情がスっと変わったのを感じた。
今、無限の顔はさっきと違い、唇から微笑が消えている。何故だか判らないが、仁はそれを感じる。
「…冗談じゃねぇ、こんな窮屈なお邸暮らしなんざ、今すぐにでもオサラバしてぇッてんだよ」
心底不快げな、吐き捨てるような無限の言い方が、仁には少し意外だった。
まさか仁も、本気で無限が極楽気分でいるなどとは思っていない。
しかし、メシと宿の心配に追われる毎日に戻るとなれば、多少の未練は見せるかと思っていたのだ。
薄闇の中で、仁は無限の瞳の在処を探った。
ズ、と膝の前の膳が横へ滑り、代わりに無限の膝がにじり寄って来た。
仁は反射的に身を引いたが、杯を持っていた手首を捉えられて上体ごと無限に引き寄せられる。
無限は仁の空杯に半ば強引に酒を注ぎ、同時に捕まえた手首に掛かった腕輪の玉を親指で弄んだ。
無限の吐息で、仁の振り分けた前髪が揺れる。眼鏡も曇るが、この暗さの中では余り意味はない。
酒を注いだくせに、杯を持った手を無限が放さないので、仁は飲むことができない。
なんのつもりだ、と言おうとした唇を、唐突に塞がれた。

拍子に酒が杯から零れ、寝巻きの膝を濡らす。強い芳香が部屋中に充ちた。
空いている方の手で無限の胸を押し、唇を離して今度こそ「なんのつもりだ」と抗議しようとするが
無限は手首を掴んでいた手を器用に動かして杯を払い落とし、体重を掛けて仁を畳へ押し倒した。
刀で斬り合えば完全に互角だが、単純な腕力だったら、仁よりも無限に一日の長がある。
「コッチのが、酒よぐっすり寝られんだろ」
言いざま耳に舌を這わせ、裾から手を入れて来る無限に、仁は暫くは必死の抵抗を試みたが、
とうとう限界を悟って諦め、体の力を抜いた。
わたしは心底疲れているのだ、と、自分に言い聞かせながら。
大人しくなった仁を満足そうに見下ろして、無限は思う様仁の体を撫で回し始めた。
しかしその掌は、やわやわと思いの外優しい動きを見せ、中々肝心なところへ触れて来ない。
くすぐったいような、もどかしいような…そして、どこか安らぐようなその感触に身を任せ、
仁は目を閉じた。

…それが、昨夜のこと。
あのまま仁は寝入ってしまったようで、今朝、目覚めたら蒲団の中にいた。
隣の蒲団では無限が寝息を立てている。
かちゃりと手に触れるものがあり、見れば仁の眼鏡がきちんと畳まれて枕元に置かれていた。
寝巻きにはべたつく酒の汚点があって、昨夜のことが夢ではないと知らせるが、
ならば自分の体に、事に及んだ翌朝に必ず残るはずの痛みや疲れがないのは何故か。
肌に触れて確かめてみても、汚れはない。
無限が清めてくれた、という可能性もないではないが、痛みやだるさまで拭いきれるはずもない。
―――わたしは、からかわれたのか?
無限は、昨夜は本気で仁を抱くつもりはなく、
仁が眠ってしまったのを見て興を殺がれて、それきり何もせずに眠ってしまった、ということか。
―――だったらわたしは畳に放置されるのではないか。何故こうして蒲団に入って、眼鏡まで枕元に…?
考えても答えは出ない。
無限は珍しく寝相良く蒲団に収まったまま、朝の膳が運ばれて来るまで動かなかった。

明日はいよいよ風と無限の偽の祝言であり、花嫁や奥方や家中の者たちは忙しいようだが、
偽婿の仁と、祝言にはこれっぽっちも関わらない無限は暇を持て余した。
明日の祝言が終わったらそのままこの邸を旅立つことになっているので、
朝食を終えると、仁は久々に刀の手入れを始めた。
無限は壁に凭れてその様子を眺めている。
幼少の頃から鍛錬を積んだ「剣士」である仁と違い、無限の剣は体力勝負・ゴリ押し上等の無手勝流、
無限の強さに刀の切れ味はあまり関係がなく、手入れに気を遣ったこともなかった。
黙々と淀みない動きで己の刃を研ぎ、磨き、仕上げていく仁の姿に、無限の胸がチリチリ焼ける。
―――このヤロウを、こんなに遠く感じたことはねぇ…
生まれて初めて、自分と互角に斬り合った男。
他の誰にも殺させやしない、この手でその命を仕留めなければ気が済まないと決意させた男。
互いの刃を交えることで、堪らないような興奮を自分にもたらす男。
姿かたちや性格が火と油なのは最初から承知していたが、
斬ることしか生きる手段を知らず、世間並みの常識だとか幸福だとかそんなものとは一切無縁、
その意味で自分達はそっくり同じだと、無限はいつの間にか勝手に信じていた。
だからこそ、どちらかがどちらかを斬るまで、決して離れることはない…離れられないのだと。
―――けどよ、ここへ来てからのコイツときたらどうだ。
   まるで生まれた時からこんな邸で生まれ育った若様みてぇじゃねぇか。
流人の島で生まれ育った無限とは別世界の住人のようだ、と。…
…そこまで考えて、無限は大きくかぶりを振って立ち上がった。
なんの前触れもなかった無限の行動に、仁が動きを止めて視線を向ける。
「ちぃっと、遊んで来らァ」
仁の顔を見ずに無限は言い、部屋を出て行った。
それきり無限は、昼を過ぎても、夕食の膳が運ばれて来ても戻らず、
仁が風呂を済ませ、明日に備えて旅支度を整え終えた頃、酒と白粉の匂いを全身に纏って帰って来た。

「…家中の誰かから金をせびって、遊び収めをしてきたか」
無限から眼を逸らし、眉根に皺を寄せて、仁は冷たく言った。
無限は無限で、遊んで来たはずなのに不機嫌極まりない顔で、ガシガシと頭を掻き回しながら、
「ああ、そうだよ。文句あっか」
頑是無い子供のように口を尖らせて応える。
そして部屋へ入るなり手拭を取ると、そのまま風呂場へ消えた。
無限が酒と白粉の匂いを湯で流して部屋へ帰ると、正座した無限が月に顔を向けて瞑想していた。
見るからに値の張っていそうな寝巻きの光沢のある絹の、
その白さと、仁の肌色は拮抗している。
無限は既に敷かれた蒲団を踏んで部屋を斜めに横切り、仁の姿を真横から見る位置にどっかと座った。
壁に凭れ膝を立てると、琉球装束と勝手の違う絹の寝巻きから浅黒い脚が腿まで剥き出しになる。
こんな、肌に吸い付くように滑らかな着物は落ち着かない。
無限が風呂から戻っても、無限の方を見ようともせず蒲団の傍らに正座して、
月に顔を向けて瞑想している仁の横顔を無限は視線だけで盗み見た。
―――このヤロウを、こんなに遠く感じたことはねぇ…
今朝に感じたことを、無限はまた思った。
昨夜、眠ってしまった仁を、自分は何故そのまま犯さなかったのか。
無限の腕の中で蕩けるように啼くくせに、瞳の奥には常に一点の鋭い光があって、
それは絶頂の瞬間にすら針のように冷たく冴えている、それが仁という男だ。
だから無限は安心して仁を抱ける。斬ることだけで生きていく自分を見失わずにいられる。
それなのに昨夜の仁は、無限に組み敷かれながら、
まるで母親の腕の中の子供のように安らかな寝息を立て始めたのだ。
無限は急に不安になった。自分と仁の関係が不意に判らなくなった。
だから、犯せなかった。
そんな理由で躊躇したという、やけに感傷な自分の心が気に入らなくて無限は立ち上がった。

わざと足音を立てて仁の蒲団へ上がり、大の字に寝転ぶ。
ほぼ真下から見上げる形になった仁の表情は、ぴくりとも動かない。
無限は伸ばした腕を動かして、仁の腿に手を置いた。
仁が顔を僅かに動かし、無限の手を見る。
無限は更に掌を進め、裾の合わせ目から中へ這入らせた。
仁は無限の眼を睨みつけ、身を捩って逃れようとしたが、
無限は素早く蒲団から起き上がると、滑り込ませた手で裾を大きく捲り上げ、
同時に仁の手首を捉えて、引き寄せると同時にぐっと自らの顔を突き出した。
二人の顔が吐息が掛かるほどまで近付く。
仁はぴくりと眉を動かし、黙って無限を睨みつけている。
無限は片方の掌で仁の腿をゆっくり撫でながら、手首を掴んでいた手を放し、
仁の顔から眼鏡を取り上げた。
開放された仁の手が眼鏡を追いかけて伸ばされれば、無限はにやりと笑って眼鏡を高々と掲げ、
「壊れちゃ困ンだろ」
一つ向こうの蒲団の上へ放り投げた。仁はその放物線を眼で追って、溜息を吐く。
「…お前がこんなことをしようとしなければ、壊れる気遣いなどないものを」
口調はいかにも億劫そうだが、
腿を蹂躙する無限の掌から、仁が最早逃れようとしていないことは、無限にはよく判っている。
「スカしてんじゃねぇよ、お前だって好きなんだろ、こーゆーコトが、よ…」
言葉に被せて無限は仁の唇に噛み付く。仁は目を閉じて唇を無限に差し出した。
腿にあった手で寝巻きの帯を解き、そのまま無限は仁を蒲団へ突き倒した。
呼吸ごと奪うようにがむしゃらに唇を吸い上げ、舌を絡め取る。
仁は応えるように舌を蠢かすくせに、声は喉の奥に押し込めて決して開放しようとしない。
腿の間を撫で回せば、手の甲に爪を立てて咎められる。
これでいい、と無限は思った。

快楽は欲しつつ情は拒む、そんな不毛な交わりが自分たちには相応しい。
唇の端から伝い落ちる雫に沿って舌を這わせ、頤や喉仏にわざときつく吸い付いていたら
「存分に、遊んできたのでは、なかったのか」
吐息の熱さを必死に隠した仁の声が聞こえた。
「…うるせぇ、ヤリ足んねぇんだからしょうがねぇだろ」
唇を喉から鎖骨、胸と段々に下へ滑らせる。内腿を引っ掻けば仁の体がビクンと跳ねた。
「こんな、ことなら、昨夜、眠ってしまわなければ、よかった…」
無限の髪を強く掴んで、その舌の動きをなんとか阻もうとしながら、仁が喘ぐように言葉を紡ぐ。
自分の頭を押さえつける仁の手を強引に引き剥がし、無限は顔を上げた。
「あ?なんだそりゃ…おめぇ昨夜、そんなヤりたかったのか?」
自然と口が笑いの形に歪む。
「馬鹿を言うな!」
間髪を入れず、厳しい否定の声。無限は再び「これでいい」と思った。調子が出てきたじゃねぇか?
「明日は、面倒な茶番を、演じなければならない、のに、今夜、こんな…ッ」
みるみる上気してくる白い頬に見蕩れながら、手の動きは緩めずに中心を掴んで刺激すると
仁の言葉はますます切れ切れになる。無限から顔を背け、眉を顰めて瞼を閉じて。
そういう拒絶の態度のいちいちが一層表情に艶を添えるという矛盾が、ゾクゾクするほど楽しい。
「昨夜ヤっちまっとけば、今夜はしないで済んだだろうってか?…ケッ!」
立ち上がったモノを握り込む掌と指に力を込め、無限は仁を追い込んだ。
蒲団の上で白い体が魚のように跳ねて、喉の奥から微かに悲鳴のような息が抜ける。
「昨夜どんなに満足してても、今夜ヤりてぇと思えば、ヤルだろうがよ、オレは…」
言葉の後尾の吐息に被せて、ぷくりと腫れた乳首を噛む。
とうとう仁の唇から「ぁッ」とはっきり嬌声が聞えた。
「な、らば、どうしてゆうべ…ッ!」
嬌声を誤魔化そうという意図か、仁が苦しい息の下から無理に言葉を吐き出す。
無限はムっとした顔で、噛んだ乳首を引っ張って更なる声を導いた。
中心を握り込んだ手の爪でその先端を乱暴に嬲り、先端から滲んだ愛液を指で掬い取る。
「うるせぇ、ゆうべは、調子が出なかったんだよッ」
八つ当たりのように吐き捨てると、滑った指を後ろへ進めた。

空いている方の手は、最初からずっと指を絡めて仁の手を強く握っている。
無限は仁を逃すまいと握る手に力を入れ、
仁は昂ぶる気持ちをせめてそこから散らそうと、握る指に無闇に力を入れる。
結局、二人の片手は主人の意に沿うてか知らず、
一寸の隙も要らぬとばかり熱烈に平を寄せ合っているのだった。
「勝手な…!!」
まだ言う仁の唇を、無限は覆いかぶさって夢中に塞ぐ。
「…ああ、勝手だ、俺ァ、いつだって…」
肌の熱さ、息の激しさ。喉の乾き、指先の震え。
「…ああ、そうだ、勝手な話だけどよ、今夜はかなり、調子が出てきたぜ…!」
探り出す指、ギラつく瞳。汗ばんだ髪、強情な唇。
「お前ばかりだ、い、いつだって…ッ」
求め合い、奪い合い、攻め入って、討ち返され。
「ァあ?てめぇだって感じてんだろうがよ」
後孔へ突き入れた指がきつく締め返されている。
無限が力ずくでそれを内側から解すと、仁の熱い内側は全力でそれを押し戻そうとする。
どこまでも意地を張る仁に、無限は内心笑みを深める。
―――そうそう、それでこそおめぇだぜ

下を嬲っていた手を引き抜き、仁の両手を完全に畳へ縫い付けると、
一旦すべての動きを止めて真上から仁を見下ろした。
もう逃げ込む死角などないのに、仁はこの期に及んで頑なに顔を背け続けている。
無限はわざと音を立てて舌なめずりし、ゆっくりと顔を近付け、頬や、耳や、首筋を舐め回した。
怯えたように逃げ回る肌をたっぷり弄んでから、白い腿を腰へ引き寄せ、
昂ぶる己を仁の解れた後ろへ押し付ける。
ひゅ、と仁の喉が鳴った。それきりクッタリと大人しくなる。覚悟を決めた合図だ。
「一遍くらい、この柔らけぇ蒲団の上でヤっとかねえと、勿体無ぇよな…」
ゆっくりゆっくり、無限は腰を進める。
「ッ、…ん……ァ………ァあ…っ…!」
どんなに殺しても殺しきれない嬌声が、仁の喉から零れ落ちる。
脚と脚を絡め、腹と腹を擦り、胸と胸を押し付け、唇で唇を吸う。
限界の至近距離まで己を突きつけ、与え合い、奪い合うように体をぶつける。
「………ッ!!」
長い突き上げの果て、仁がとうとう声にならない悲鳴を上げた。
「ッ……ぁ……は…ァ…」
同時に無限も頭が真っ白になって、腕の中にある体を盲滅法抱き締めた。

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仁と風の偽りの「祝言」が始まる前に、無限はとっととお邸を退散した。
口止め料だの迷惑料だの滞在費だの退屈料だの、
あらゆる理由をくっつけてお邸から巻き上げた金は懐にたんまりとある。
無限は適当な酒屋を見繕って暖簾を潜ると
「あるだけどんどん持って来いや!」と景気の良い注文をした。
今頃、仁は着慣れぬ裃を着けて神妙な顔をして、綿帽子を被った風の隣に座っている。
化粧だけではない紅に頬を染めているだろう風には悪いが、
仁の首にも、顎にも、着物で見えない体中に、不自然な赤痣が花びらの如く点々と散っているのだ。
その正体を知っているのは、この世で無限と仁の二人だけ。
安い酒を呷りながら、無限は笑いが込み上げて来るのを抑えられなかった。
―――ああ、そうさ。あいつの体もあいつの命も、何もかもオレのもんなんだ。オレだけのな。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ナガカッタナ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
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