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本日も舞踏中

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )絢/爛舞/踏祭(ゲーム版)の主×艦橋で良く倒れる人。
            ビデオ棚9の146-149からこのスレの367-369の続き
              になります。

 戦闘終了後のR/Bを収容したデッキには、命令及び自己判断によって動き回る大量の
ボール達と、彼等に紛れる様にして行き交う整備クルー達の忙しげな空気で満たされてい
る。
 Yは自分に気付いて挨拶を返して来る整備クルーに軽く右手を挙げる事で答えながら、
一機のR/Bの前で向かい合わせに立っているKの姿を見つけてそちらへと近付いた。
 「よぉ」
 「待たせたか」
 「ん?いや」
 自分の傍へと歩いて来たYに気付いたKは己の乗るR/Bから視線を移し、僅かに目を
細めて軽い挨拶を投げ掛ける。
 それにYは軽い頷きと言葉で答えたが、そうするとKの目は更に細まり、子供の様な笑
みに形を変えた。
 「取りあえず、先程の件だが」
 「あー…それ、なんだけどなぁ」
 早速本題に入ったYにKが言う。
 「実際に確認して貰った方が良いと思うんだよな。うん」
 「確認する?」
 「そ。ちょっとしたデータなんだけどな。まだ、モニターに表示される様になってるか
らさ」
 自分で見てよ。とKは付け足し、つい数分前迄自分が身体を埋めていたコクピットを指
差した。
 そこは緊急時にはすぐに乗り込める様にハッチが開かれたままになっており、乗り手で
あるKの言葉に反応したのか、コクピット内に組み込まれているボールが返事をする様に
微かな電子音を鳴らした。
 「データか……では、そうさせて貰おう」
 一体何のデータなのかはまだ分からないが、モニターに。と言うのであれば画像の類い
なのだろう。そう考えながらYは顎を軽く引いて同意し、圧倒的な戦力差であったにも関
わらず傷一つ無いR/Bへと身体を寄せて上へと開かれたハッチに右手を掛け、静かにコ
クピット内へと身体を入れた。

 天井が高いせいも有るだろうが、他の区域よりも照度の低いデッキからコクピット内に
入り込むと、起動されたままの制御システムやレーダーが発する光が眼鏡に反射して妙な
明るさを感じさせる。
 「一体何のデータだ…?」
 Yは、R/Bの前に立っていたKが自分を見ているのを視界の端に入れつつ、彼が言っ
ていたデータを探す為に視線を巡らそうとし、すぐさまそれを見つけて動きを止めた。
 「……な…っ!!」
 一瞬ただの静止画かと思ったそれは、動画データだった。
 映されている場所は食堂だ。
 そして、自分とKが。
 「……何故、だ」
 どうしてこんな物がここに有るのか。と言うよりも、そもそもどうしてこんな物がデー
タ化されているのか。
 シートに完全に身体を預ける間も無かった為、Yはへたり込む様にしてそこに座り、
少し前に食堂で行われた馬鹿げた『思い出作り』の事を強制的に反芻させられている今の
状況に、思わず意識が遠のきかけたが、何とか堪えた。
 「…K」
 「何?」
 自分でも分かる位、明らかに普段よりも低い声が出た。
 それに対して呼ばれた側であるKの方はいつも通りの。いや、少し上ずっているらしき
声で答える。
 「ちょっと、ここに来い」
 「え?希望/号は複座じゃな」
 「良いから来い」
 「はい…」
 最初からこうなる事は予見していたはずだが、Kは冷え始めた空気を撹拌しようとして
失敗し、叱られた子供よろしく項垂れながら二人が乗るには狭いコクピット内へと乗り込
んで来る。

 「これは、何だ」
 「何って…その、思い出はプライス/レス。の証拠?」
 「ほう。そうか」
 「な、何だよ、その意味有りげな笑いアンド握り締められた拳は…!!」
 「特に意味は無いぞ。本当だ」
 「嘘付け!かなり嘘付け……ってがはっ!!」
 Yはシートの横に中腰で立って抗議の声を上げたKの顎に鮮やかな右アッパーを決め、
それと同時に左手でコクピットハッチを閉める様、操作する。
 Kが仰け反っている間にハッチが閉じてデッキからの光は遮られ、小さいながらも完全
に独立した空間となったコクピット内でモニターの淡い光が二人を照らし出した。
 「ったぁ…。あのなぁ!俺が記憶しておいてくれって頼んだんじゃあないんだぞ!?」
 「あんな所で馬鹿げた事をするお前が悪い」
 顎をさすりながらもめげずに抗議を続けるKにそう言い返し、Yはずれている訳でも無
い眼鏡を指で押し上げる。
 「全く…お前のお陰で、とんでも無い物が流されているらしいな」
 「俺だって、さっき気が付いた所なんですけど…?」
 「お前は自業自得だろう。俺はそのとばっちりを受けた事になる」
 「……Y、お前って冷たいヤツだったんだな…」
 「知らなかったのか」
 外では二人掛かりでR/Bの調整をしていると思われているのだろうか。ふとそんな事
を考えながら、Yは不満げに唇を尖らせているKの顔を見遣る。
 「…何にせよ、このデータを消去する事は出来ないだろうな。この艦に居るボール達の
みならず、他の場所に居るボールにも広がっている可能性が高い」
 「あーああ…俺の大切な思い出がデータとして残るなんてなぁ…せっかく独り占め出来
るって喜んでたのに」
 「もう一度殴ろうと思うが、覚悟は良いか?」
 「いえ、もう結構です。ごめんなさい」
 わざとらしく右拳を握って見せると、Kが慌てて首を横に振った。
 「やれやれ…本当に、とんでも無い事になったモンだ」
 「お前が言うな」

 Yは頭上からの呟きを聞いて肩を竦め、嘆息する。
 己が言った通り、広がったデータは消去も回収も出来ないだろう。
 彼等なりのネットワークを持っているボール達の事だから自分達以外に見せたりはしな
いだろうが、このデータが数え切れない程の複製されていると思うとさすがに気が重い。
 その事実を追い払う為に再び眼鏡を押し上げようとしたYは、その手が横から伸ばされ
たKの手に掴まれたのに視線を上げた。
 「何だ」
 「なぁ、そんなに嫌か?」
 手の力はさほど強くはない。
 しかし、続いた問い掛けは呟く様でありながら、はっきりとYの耳に届いた。
 「そんなに、嫌だったか?」
 少しニュアンスを変えた問い掛けがもう一度発せられる。
 いきなり何を。と言いかけたYは、シートの端に身体を預けながら己へと顔を近付けて
来たKの表情が僅かに苦い物を浮かべているのに気付いて口を噤んだ。
 「…それなら、悪かった。ごめんな」
 答えが無かったのに構わずKはそう言うと小さく、自嘲気味に笑った。
 「もうやらないよ」
 子供が悪戯を叱られた時に浮かべる、いつも彼が浮かべている全く気を遣って無さげな
笑みかと思ったが、ほんの僅かに、それとは違う一歩退いた何かをYは感じた。
 「K、ちょっと待て…」
 齟齬が生じている。
 そう思いながら、上手く言葉が出て来ない。
 他の突発事項ならどの様にでも誤魔化し、強引に巧妙に流れを変える手管を幾らでも考
えられると言うのに、今は何も出て来なかった。
 「何を、言っているんだ」
 「何でも無いさ。もう、な」
 優しいとも言える穏やかな言葉と共に、握られていた手が解放された。
 造り物の身体だが、そこには体温が有り、Kの存在が感じられる。
 その為に解放された手が、空虚さを押し付けられる。

 「待て。俺は」
 違う。と言いかけて唇が震えた。
 恐れる事は無いはずなのに、ほんの短い言葉すらも伝えられない。
 「気にするな、友よ。…ってな」
 言葉を詰まらせるYを制する様にKは言い、前屈みにしていた身体をゆっくりと起こし
ながら、今度はいつもの笑みを浮かべた。
 しかし、それが余計にYに焦燥感を覚えさせる。
 確かに友だろう。間違いは無い。
 ただ、今言われた事は何か違う気がした。
 「K、待ってくれ」
 そう言ったが、Kの身体は退いて行く。
 このまま何事も無かったかの様にハッチを開き、お互い外に出てしまえば、本当に何事
も無かった事になるのだろうか。
 Kは上手くやるだろう。表面上のみであれ、友として。
 己は上手くやれるだろうか。表面上のみであれ、友として。
 それでは駄目だ。とYは思った。
 この男に対して、上っ面を塗り潰させる様なつまらない誤魔化しだけはさせたくもない
し、己もしたくも無い、そう思った。
 「K」
 短く、名前だけを呼び、掴まれていた手を伸ばし、Kの着る太陽系/総軍の青い制服の
胸元を掴むと退きかけた身体を自分の方へと引き寄せた。
 そして。
 「Y、どうした…?」
 完全に接触する直前、間近から呼び掛ける小さな声が聞こえたが、Yは目を閉じて聞こ
えなかったふりをする。
 すると声はそれ以上続かず、ただ己の肩にKの手が触れて、そこを軽く掴まれた。
 「ふ……」
 最初は重なっているだけだったのが、息を吐く為に薄く開いた所を食まれ、思わず声が
漏れる。

 最初は重なっているだけだったのが、息を吐く為に薄く開いた所を食まれ、思わず声が
漏れる。
 何度か戯れる様に、形を確かめる様に動きを繰り返され、時折答えると肩を掴んでいる
手に少し力が入った。
 やがて胸元を掴んでいた手を離し、自分よりは少し高い位置に有る腰へと腕を回すと、
角度を変えて深く求められる。
 熱く、ぬるみの有る物が己のそれに絡まって来るのにも、異物感を覚える事すら無く、
ただその動きに応じ、呼吸をする間も忘れる程集中して行く。
 「ん…く……」
 飲み込み切れずに零れ落ちる唾液は、それらしくカモフラージュされた造り物の男の物
なのか己の物なのか分からなかったが、気に留める余裕は既に無かった。
 肩に置かれていた手が自分の後頭部に移動し、上向いている頭を支えてくれているのは
いつからだろう。
 細切れの思考をそのままにYが僅かに目を開くと、前と同じく律儀に目を閉じているK
の顔が見える。
 これと言って特徴の無い、ある意味特徴の無い事が特徴とも言える顔だが、今はKとし
て認識されるそれがYは気に入っていた。
 現行、好きだ。に変更するべきだろうか。
 ただ、間違っても本人に悟られる訳には行かないが。
 「は…っ…」
 合間に息が漏れ、すぐに塞がれ、絡められ、再び呼吸を許され。
 目を開いていても熱に視界が霞み、軽い目眩を感じた。
 一心不乱に何度も何度も、執拗な程に繰り返しても、まだ足りない様で更に没頭する。
 溺れている。
 己はそんな思いを抱いていた事を認識したくなかっただけなのだろうか。
 Yは目を閉じると、Kの腰に回した腕に一層力を入れてその身体を引き寄せた。

 数十秒か数分か、とにかく幾らかの時間が過ぎた。
 どちらからともなく顔を離した二人は同時に小さく息を吐き、同時に視線を合わせる。
 「えーと、ごちそうさま?」
 「……前にも言った台詞だな」
 「そうだったっけ」
 実際は覚えているのだろうにKがそらとぼけたのは、彼なりにこちらに気を遣っている
つもりなのだろう。
 「本当に、お前は……」
 身体は寄せたままでYは呟き、最後は言わないでおいた。
 「ん?馬鹿とか阿呆とか続いたりする?」
 「その両方だが、今だけは違う物も有ると言っておこう」
 近く、遠くからの呼び声に応えてくれる友よ。
 親愛なる。深く愛すべき者よ。
 葬るべきモノを葬り、繋ぐべきモノを繋げ、最後はそこから消え去る者よ。
 絢爛/舞踏。この世界においては希望と呼ばれる存在よ。
 お前を呼ぶ時、俺は、出来る限りその傍らに立ちたいと思う。
 口には出せずとも、本当はいつも思っているのだ。
 愛おしい。と。
 「ふぅん…ま、良いけどさ」
 Yのはぐらかした言葉も、何か思っているであろう事も追及せず、Kはそう言ってから
首を傾げる。
 「そういえば、ここにもボールが居るんだよなぁ…」
 それについては、Yも気が付いていた。
 R/Bを操縦する際にサポートとして必要不可欠であるボールは、この希望/号にも組
み込まれている。
 操縦桿に埋まる様にして据えられているそれは、今も稼働中のセンサーが明滅を繰り返
している所だ。

 「又、記憶されてたりしてな」
 「今更だ。データが二つになろうが三つになろうが、俺はもう気にしない事にした」
 「おぉ……Yが開き直った」
 「おかしいか?」
 「いーや、俺としては、物凄く結構な事だよ」
 Kが笑う。
 それは子供が悪戯を思い付いた時の様な、邪気の無い笑みで。
 「じゃあ、取りあえずデータ候補をもう一つ増やしても良い?」
 「……好きにしろ。ただ、余り時間を掛けるな。そろそろ他の連中に怪しまれてもおか
しくは無いからな」
 「はいはい。分かってますよ…」
 今度は、Kが自分から顔を寄せて来る。
 その口の端に僅かに残った笑みを見たYは自分の唇も笑みを刻むのを感じながら、落と
される口付けを受け止めた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
              というか、連投規制が大変でした…。
              お粗末様です。


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