オフサイド
更新日: 2011-05-01 (日) 08:57:46
オフサイドでシンゴとヤクマル!
やり切れない気持ちのままに原作補完したものです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )
「ひとりでやってみる」とさらりとヤクマルに言われて、オレはとっさに言葉が出てこなかった。
頭が真っ白になって、ヤクマルの言葉の意味がわからなかった。
落ち着こう、落ち着こうと思うのにちっともうまくいかなくて、スポンジを握る手が震えそうになる。
今、こいつ、オレと離れて別々のチームでサッカーをやりたいってそう言ったのか?まさか、そんな。
甘ったれで調子が良くって、いい格好しいのお前が、オレのセンタリングなしで一人でサッカーをやりたいって、そう言ったのかよ?
めちゃくちゃ動揺している自分をごまかすために「そりゃいいわ!俺もそう思うワ!」なんて言ってみたけど、そんなのは全部嘘だった。
オレの方ではそんな事、考えたこともなかった。
ヤクマルのいないサッカーなんて、そんな事。
左スミに持っていって、あいつにセンタリングをあげる。
小学五年のお前と初めて同じチームでプレイしたあの試合からずっと、それがオレのサッカーだった。
オレの蹴ったボールを走り込んできたお前がゴールに叩き込む。それがいつだって最高に楽しくて、気持ちよかった。
ヤクマルの笑顔とガッツポーズを見ると、世界が自分達のものになったみたいな気がした。
それなのに、お前は。
オレとサッカーしながら、一人でプレイする事をずっと考えていたって言うのか。いったい、いつから…?
「もっと、いろんな可能性があるかなって、おもうじゃん、シンゴの方もさ。」
言いながらヤクマルがカウンターにこつんと頭をくっつける。
こんな時だってのに「根元の黒いとこ伸びてきちゃってるな…また染めてやんなきゃ」なんて思いながらカウンターに散る髪の毛を見る。
触った時の柔らかい感触だってよく知っている、ぱさぱさとひろがる茶色い髪。
「オレも思いきって何か変えないと、ゴローにおいてかれちゃう…ライバルでいられなくなっちまう。」
オレの方なんて全然見ずに、ぼそぼそと呟いたヤクマルの、見たことのないような大人っぽい表情にどきりとした。
焦りや不安を感じながらも負けずに強くあろうとする、男の顔だと思った。
ジャージャーとわざと勢いよく水を出して皿をすすぎながら、やっとのことで「その通りさ」と言った。
とにかく理性とか演技力とか見栄を総動員して、なんでもないような顔をして、平気なふりでヤクマルと別れた。
じゃーなと手を振りながら反対の拳をぎゅっと強くにぎって、堪えた。
「シンゴ、いい加減に起きなさいよ」と言う姉ちゃんの声で目が覚めた。
二日酔いで頭ががんがんする。
そうだ、昨日はあれからめちゃめちゃに呑んで、無理やり眠りの世界に逃げたのだった。
気持ち悪くて頭が痛くて、しかもやたらに孤独で寂しくて、寂しいなんて思ってる自分が情けなくて、泣きそうになりなる。
とてもじゃないけどこんな顔誰にも見せられない。
というか、気持ち悪くて身体を起こせない。最悪だ。
布団を被って昨日のヤクマルを思い出す。
ヤクマルの声や、言葉や、ストローをいじる指先なんかを。
あいつは一人で、随分先に行ってしまったんだなあと、ぼんやり考える。
今まで、オレがあいつを支えてるつもりでいたけど、あいつはオレの支えが無くても一人でどんどん進もうとしている…。
「…います?」「疲れてるみたいでずーっと寝てるけど、勝手に上がって」
次にまた姉ちゃんの声で目が覚めたときには、外は大分暗くなっていた。
青っぽく染まった部屋の窓から商店街の街灯の灯が見える。
とんとんと、階段を上がってくる足音が聞こえる。
ヤクマルの、軽い、いつもの足音。
「おっす、シンゴ」勢い良く襖を空けた薬丸が、ちょっと心配そうな顔で枕元にどかっと座り込む。
「なんだよ、どっか具合でも悪いのか?」
「…二日酔いだよ、頼むからもうちっとそーっと入ってきてくれ」
「情けねーな、そんな呑んでたっけ?」
「呑んでたんだよ、あー気持ち悪い。悪いけどヤクマル、水持ってきてくんない?」
はい、と手渡された水が身体に染み渡る。
大分気分も回復してきたようだ。
「散歩でもしようぜ」と誘われ、ヤクマルを待たせてシャワーを浴びて外に出た。
もう三月も終わりなのに、まだまだ夜は冷える。]
背中を丸めてマフラーに顔を埋めるようにしながら夜の商店街を歩く。オレが育った街のオレンジの街灯が、ヤクマルとオレを照らしてアスファルトにぼんやりした影を作っている。
ピンクやオレンジの、安っぽいビニールの飾りもなんだか寒そうだ。
「さみーなあ」
「なー」
「あー、でも風冷たくて気持ちいーなー」
「お前ちょっと酒くせーぞ」
「お前だって結構呑んでただろ… なあ、お前今日、何か用事?」
「…ちげーよ、ただ遊びに来ただけ。それよりちょっと寄ってかない?」
にやりとしながらヤクマルが指さしたは、小学校のフェンスだった。
「うわー、校庭せまっ!」
「オレらが大きくなったんだろ」
言いあいながらフェンスをよじ登って校庭に侵入した。
フェンスから飛び降りられずにそーっと地面に足をつけるオレを見てヤクマルが笑った。
「しょーがねーだろ、頭痛いんだから。つーかあんまり大声で笑うなよ、見つかったらやばいぞ」とたしなめると、
ヤクマルが一段と大きな声で「あ!」と叫ぶ。
人の言う事なんて全然聞いちゃいない。
「あれあれ!」と言いながら駆け出した先にはサッカーゴール。
白い木枠で作られた小さなサッカーゴールの足下には、サッカーボールが転がってる。まさか、まさか。
二日酔いで死にそうなオレにこれ以上何をさせようっていうんだ。
今はサッカーボールなんて見るのも嫌なくらいだってのに。
そんな笑顔でこっちを見たって、今日ばっかりはちょっと無理だぜ。
固まって立ち尽くしているオレの方に、「いっくぜー!」という叫び声と共にボールを持ったヤクマルがドリブルで向かってくる。
「うわー信じらんねー!吐きそう!」
「おらおら、そんな事言ってるとシュート行くぞ!」
「…させるか!」
ヤケクソになってヤクマルとボールを奪い合った。
本当に信じられないのはオレの頭だと思う。
気持ち悪いし、頭は痛いし、孤独で寂しいのも変わらなかったけど、この時間をなんだかすごく、楽しいと感じているオレの頭だと。
こいつがいなくなるなんて、信じらんねーな。
でも、こいつは行くんだろう。オレが泣いて止めたって行くだろう。
嫌になるほど一緒にしてきたサッカーだけど、やっぱりまだまだやりたりねーよ。
もっと、ずっと、お前とサッカーできたらいいのに。
とは言えもちろん先にギブアップしたのはオレの方だった。
というか、この状態でサッカーなんてできた事を褒めてもらいたい。
いつも勝手言って、オレを振り回しやがって。
「も、もう、無理!!!!限界!!」倒れ込むように校庭に腰をおろし、手をついて見上げた空には星が見えた。
両手で数えられる程度しか見えなかったけど、冷たい空気の中でチカチカと瞬いている。
「ったく、情けねーなー、…お前、そんなんでこの先一人で大丈夫かよ?」
隣に仰向けに倒れたヤクマルの、不自然に上ずった声が下の方から聞こえてきた。
つまり、やっぱり、そういう事だったんだな。
それを確認するめにわざわざ会いに来たのか。
動揺を隠そうとした自分の必死の演技を思い出して、なんだか可笑しくなった。
ばれてたんだろーな。笑える自分が不思議だった。
昨日はあんなに絶望的な気持ちだったというのに。
「…なんかさ、今ボール蹴ってて急に思い出したんだけどさ。」
質問に答えずに唐突に話しだす。
こっちをじっと見るヤクマルの不思議そうな視線を頬に感じた。
「オレ、ガキの頃、お前と初めてサッカーした時さ、負けたくねえって思ったんだよ。
お前みたいなお坊ちゃん育ちのやつに負けるもんかってさ。
お前と組んでするサッカーがあんまり楽しいんで、そんな気持ちずっと忘れてたんだけどさ。」
「へえ…」と言ったきりヤクマルが何も言わないので一人で続ける。
こんなにべらべらしゃべるのって本当はオレのキャラじゃないけど、たまにはいいだろ。
昨日はショックで何も言えなかったし。
「…オレさ、自分の事周りの奴より大人だと思ってんだよな。
父親いなくて、周りの奴よりちっとは苦労してるし、小さいころからませてたからさ。
クールだとか、大人びてるとか言われてさ。
お前のことも、オレがフォローしてやってるんだと思ってた。
お前が好き勝手できるのも、オレのフォローがあるからだって、お前の面倒見てるような気持ちになってたんだな。…怒るなよ?」
「…ああ」
「でもお前、オレの知らない所で、自分でちゃんと考えてたんだな。
強くなりたい、そのためにはどうしたらいいのかって、ずっと。」
「やっぱりちょっとショックだったよ。
オレはお前とずっとサッカーやっていくつもりだったから。
でも、お前に言われて初めて、考えてみようかと思ったんだ。
オレのサッカーってなんなのか。
もしかしたら、お前にセンタリングあげる以外の、もっと新しい、もっとワクワクするような自分のためのサッカーがあるのかもしれない、って。」
「で、さ。今、ものすごい久しぶりに、ガキの頃の、お前の事ライバルだと思ってた気持ち思いだしたんだよ。そしたらさ、」
「うおー!!」
ヤクマルが突然大声で叫んで勢いよく上半身を起こす。
オレが気持ち良く話してるのに、っていうか盛り上がってるところなのに一体なんだよ?
「そう、そうなんだよ!」
もう真っ暗で顔なんてよく見えないけど、目をキラキラさせているヤクマルの表情が見えるみたいだ。こっちを向いた声がワクワクしてる。
「お前がライバルなんて、すげー燃える!チームメイトもすげー楽しかったけど、きっとライバル同士っていうのもいいぜ!」
「お前、オレの台詞とるなよ!今から言おうとしてたとこだろ!」
「あはは、わりーわりー。なんか想像したら興奮してきちゃって。」
「…まあいいや、なんか気ィ抜けちゃったよ。とにかくそういうこと。
お前がゴローに対して思ってるみたいに、オレもお前に追いつきたい、追い越したいって、思ったんだよ。…お前のおかげでさ。」
「さんきゅーな」と、小さく付け足すと横から満足そうなため息が聞こえてきた。
「お前なら、わかってくれると思ってたよ。
…前にさ、ゴローが言ってたんだ。
シマモトと、フワの事でさ。あいつら別々のチームで、敵同士みたいになっちまったことシマモトは気にしてたけど、それは夢がくいちがっちまったわけじゃなくて、二人は今でも同じ夢を追いかけてるんだって。
ユニフォームの色が違うだけなんだ、ってさ。
それってなんか、わかるような気がしないか?
…春から別々のユニフォーム着る事になるけどさ、きっとオレ達いつか、一緒に全日本のユニフォーム着るんだ。
すごく強くなったオレとお前で一緒にさ。」
「ああ。約束だぜ。」
声が震えないように、短く応えて立ち上がり、ヤクマルに片手を差し出す。「帰ろうぜ、身体冷えちまう。」
オレの手を掴んで立ち上がったヤクマルのひんやりした指の感触を、ずっと覚えていようと思った。
春休みの予定をぽつぽつと話し合いながら帰るオレ達を、高くのぼった月がぼんやりと照らした。
近所の生け垣から名前を知らない花の匂いがして、確かにもうすぐ春なのだと思った。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )終了!
いえいえ、問題ないです。>389
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