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ドクオクエスト 穢れた勇者

行きます。
5/5です。
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見上げた城は険しい山の頂に、その姿を晒している。
どのような魔法の仕業かいつもそこには暗雲が立ち込めていて、
時折降り注ぐ雷がその威容を不気味に浮かび上がらせていた。

とうとう、ここまで来た。

…あの日から、10年の月日が過ぎていた。

あの少年の終わりの日、森の中へと分け入った私は、まず弱い魔物を狩る事から始めた。
剣の腕を磨くために。
けれども同時にそれは、私自身が生き延びる為でもあった。
貰った僅かな食料は、すぐに底をついた。だから、飢えを満たすためにも狩りは必要だったのだ。
兎や狐などの小動物が捕れる時もある。けれど、私の姿を見て逃げ出す彼らより、
襲い掛かってくる魔物を仕留める方が、遥かに効率が良かった。
大抵の魔物は、倒すとその場に溶け崩れてしまう。けれど稀に形を残したままの魔物がいると、
私は狂喜してその肉を貪り食った。それすら叶わない時には、溶けた魔物の残骸を口にしてみた事もある。
毒に中り生死の境をさまよう羽目に陥ったが。
やがて、腕が上がるにつれて倒せる魔物も大きくなると、私はその毛皮を剥いで行く先々の村に持ち込み、
僅かな金銭を得る術を覚えた。
呪われた証を持つ額を隠し、顔の半分を覆っていれば、大抵の村は私を胡散臭そうな目で見ながらも取引に応じてくれる。
やがてその剣の腕を見込まれて、私は村の障害となる魔物の退治を請われるまでになっていた。
村が無くなった日から追い立てられる日々を送ってきた私には、人に頼りにされるという事が、純粋に嬉しかった。
たとえその報酬が相場よりも恐ろしく低い金額であろうとも。退治した魔物の証拠を持ってきた途端に、
豹変した村人達に石を持って村から追い出される事になろうとも。

そんな愚かな私を人々は「勇者」と呼び始めた。皮肉と嘲りを込めて。

その噂は四方に飛んで、村々はこぞって私に魔物退治を依頼した。優しく丁寧な依頼に今度こそと期待をして、
その度に裏切られ、私は村を後にする。
人々の嘲笑を浴びながらも、それでも私は、魔物を倒し続けるしか無かった。

私には、それしか出来なかったから。

成長するにしたがって、顔の傷は幾分ましにはなった。
とは言っても剥き出しだった肉に薄く皮が張ったという程度のものだったが。
潰れた咽喉も何とか治り、しわがれた声だが出るようになった。
身体の傷もよくなった。身体中を醜い蛇が這い回り、溶かされた内臓が時折膿んで、私を苦しめてはいたが。

恋も、した。

私がよく魔物の毛皮などを取引していた村の、小さな酒場の娘だった。
得た金銭で身の回りの装備を整えた後に、残った金を握りしめて私はそこに通った。店の隅でたった一杯の酒をちびりちびりと口にしながら、
はちきれんばかりの笑顔で客に対応するその娘を眺めるのが私の唯一の楽しみだった。
…少し、母に似ていた。
呪われた身で、彼女とどうなろうと思ったわけではない。ただ、見つめていただけだ。声すらかけた事はない。
けれどある日、いつものように店の隅で飲んでいた私は、突然店の用心棒に首を締め上げられ、店の外へと投げ出されてしまった。
“…あんたみたいなのにうろちょろされちゃあ、売り上げに響くんだよ”
投げ出された拍子にフードが飛んだ。剥き出しになった爛れた左の顔を手で隠しながら声のほうを振り向けば、
用心棒とその腕にしなだれかかるあの娘がいた。
私の醜い顔に、二人の顔色が変わる。
“気持ち悪い”
母に似た顔が、侮蔑と嫌悪に歪んでいる。その事がとてつもなく悲しくて、その場にへたりこんだままの私に水がぶちまけられた。
“…二度と来ないで。汚らわしい”
犬のように、追い立てられる。

彼女は母ではない。それが判っていても、母に似た顔で告げられた容赦の無い罵声に、森に逃げ帰った私は声を上げて、泣いた。

そんなある日のことだ、王の娘が竜王の手下に攫われるという事件が起きた。
直ちに国王は全国に触れを出した。姫を救うために国中の騎士や戦士や勇者は城に集まれ、と。
村ひとつを見殺しにしたくせに。何十人もの人間が死んでも意に返さない王も、自分の娘は可愛いのか。
勿論、私は応えなかった。そもそも私は勇者でも何でもないから。
けれども、中途半端に噂を聞き及んだ城の兵士に、私は無理やり王の前へと引きずりだされてしまうことになる。

“…お主が勇者か”
引き据えられた私を見て、王は落胆した声を隠そうともしなかった。
彼は勇者に何の期待をしていたのだろう。筋骨逞しい戦士のようなものを想像していたのか。絵に描いたような騎士の姿を想像していたのか。
中にはそんな勇者もいるかもしれないが、私はただの貧相な小男にしか過ぎない。
「私はただの魔物狩りです」
答える私に、そのようだな、と不満げに王が鼻を鳴らす。その視線が不意に、私の被ったフードに落ちた。
“お主、何ゆえ被り物をとらぬ”
「顔に、醜い傷があるのです。お目汚しになりますので」

その瞬間、王の瞳に踊った加虐の光を、私は確かに見た。

“そのような事関係ないわ。無礼者が”
自分の求める者が集まらなかった腹いせを、王は私に求めたのだ。広間に集まる群衆の前で私を辱めることで、その憂さを晴らそうとしている。
衛兵が、私に駆け寄ってくる。私はこの時、自らの手でフードを取るべきだったのだ。フードを取り、醜い素顔を皆の前に晒して、
笑い者になることで王の溜飲を下げねばならなかった。
衛兵の手がフードを掴む。力任せに引き剥がされた。その瞬間、広間に走るどよめき。
“呪われし者だ”

――なんとしても、そうするべきだった。額を隠したバンダナごとフードをもぎ取られて、呪われた者の証を露にされてしまう、その前に。

広間の中を、着飾った貴婦人達のつんざくような悲鳴が響く。
さらに駆け寄った衛兵達に私は寄って集って引き倒され、その身体の脇に幾本もの槍を突き立てられた。
“王宮に穢れを持ち込むとは。この慮外者が”
口々に口汚く罵られる。私は自らの意思で来たわけじゃない。無理やりつれてこられたのだ。
なのにそう反論する事すら許されずに、少しでも動いたら切り裂かれそうな槍の刃に怯えて、私はその場に凍りつくしかなかった。
“お主は、男であろう。男でありながら魔物に犯され呪いを得たのか”
よくもまあ、生きていられるものよ。と王の口から蔑みの言葉が発せられる。恥知らず。汚らわしい淫売。広間から上がる声は
あの日、隣村の村長に浴びせられた罵言を、私に思い起こさせた。

これが、呪いか。

あの日とは比べ物にならないくらいの言葉の礫を浴びながら、私は思った。
呪いを宿したといわれたその日からも、受けた傷のほかには私の身体に何の変化も現れなかった。
角も生えず牙も伸びず、死肉を求めて徘徊することもせず、変わったのは私を取り巻く皆の反応だけ。
魔物が私に呪いを宿らせたのではない。魔物に犯された者を蔑み虐げるこの世界に呪いは既に宿っていたのだ。
だから、魔物に犯されこの世界から放り出された私は、こうして皆からの呪いを受ける身となったのだ。
“まあ、待て”
興奮は最高潮に達していて、このまま私は皆に嬲り殺されるのでないかと思い始めた頃、他でも無い王が皆を制止させた。
“姫を助けられるなら、誰でも良いわ”
まるで汚物を見るような目で私を見ろした王は私に、名は、と聞いた。
「…ありません」
本当はあった。いや、あったはずだった。けれどももう、忘れてしまった。この10年の間、誰も私の名など呼ばなかったから。

母は私をどう呼んでいただろうか。あの優しく美しい声で、母は毎朝、私を優しく揺り起こしてくれた。
“――起きて。――。朝ごはんが冷めちゃうわよ”
なのにもう、思い出せない。

“ふん。呪われし者に名など無いか。では勇者と呼ぼう。貴様には過ぎた名だが”
何を言い出すのか、この王は。
“勇者よ、貴様に命じる。竜王の手下どもに攫われた姫を救出せよ。それまでこの王都に立ち入ること、一切まかりりならん”
連れて行け、と犬でも追い立てるような王の仕草で私は広間から引きずり出され、そのまま王都の外に放り出された。
王都の門が、目の前で無慈悲な音を立てて閉じていく。
こんな所まで、あの日と同じだ。
別に王は、私に何の期待もしていないのだ。姫を助け出せればそれで良し。失敗して私がどこぞでのたれ死んでも、
王は痛くも痒くもないのだから。体の良い国外追放だ。

「ゆうしゃ…」

口の中でその言葉を転がしてみる。いっそ哀れなほどに、私には似つかわしく無いその言葉を。
魔物の呪いを宿す私は、人ではなく、ましてや魔物にもなれず。
誰からも受け入れられることの無い、私は穢れた勇者だった。

本日はこれにて。

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続き:決戦前

  • バッカーノ -- 2011-10-10 (月) 13:12:00

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