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電脳戦機バーチャロン マーズ シャドウ×自機(747J)

彼は地面に顔を張り付かせたまま、自分の置かれた状況に困惑した。
「…嘘だろ?」
何せ今自分が伏せているのは、さっきまで自分がいた筈の木星とはまるで違う灰色の大地。
彼方には青い星。
有り得ない。

それだけでも有り得ないのに、今、彼の目の前には、漆黒と紅の邪気を纏ったVRが佇んでいる。

『ギ……ギ………ガ…』

彼――特務公安機関MARZに所属するVR、MZV-747-J・テムジン747Jは、火星での戦闘活動の後、ロストした目標の捜査の為木星での陽動作戦に従事していた。
そして、木星深層部で異界よりの侵入者…アジムとゲランとの戦闘に僚機と共に巻き込まれた……

……彼にはそこまでの記憶はある。
だが、その先の記憶がない。
そこからが全く思い出せないのだ。
気が付くと、ここにいた。

ここ、月の大地に。

そして目覚めたときには、危機は眼前に迫っていた。

『ギ………ギギ……ィ』
「なっ…何だよこいつ……!」
倒れ込んでいた747Jはその異様な殺気を漲らせるVRの姿を認めると、上体を起こし後ずさりする。

同じ、747J。
しかしそのボディは何かに侵食されたように黒く、瞳や回路からは紅い光が放たれる。
奇妙な電子音にノイズ混じりの声。
おかしい。
そのVRが正気でないことは明らかだった。

『――…』
「っ!」
ふいに声ではない、何か意志を持った音が発され、それに呼応するように彼の体がぴしぴしときしむ。
急激に大きな恐怖が747Jを支配していく。
「し、司令部!司令部!!」
747Jは慌てて通信を試みた。
しかし、応えはない。
失望の短い声を上げた後、救難非常信号を発してみた。だが信号が発信される様子はない。
通信回路は完璧に破綻しているようだった。
『…ギ……』
ゆらり、と747Jに近づく黒い“影”。
「くそっ!!」
747Jは傍らのスライプナーを掴み、立ち上がって漆黒のテムジンに向かう。
スライプナーに青白い光が点り、剣身が熱量を増していく。
「誰だか知らないが、やろうってのか!」
その剣を手に、747Jは黒のテムジンに斬りかかる。しかし、
ピシィ!
「あ゙!?」
瞬間、青の光は紅の光に阻まれる。
そして747Jの身体を途轍もない痛みが襲った。

「あ゙…グあァ…!!」
ガシャン、と747Jの手からスライプナーが滑り落ちる。

痺れる、潰される、壊される!

とっさにそんな言葉が脳裏によぎる。
『――…』
「グぅうっ!?」
ついに747Jは膝をつき、そのVRの足元に四つん這いに倒れ込んだ。
(あのVR……!)
紅い光を睨んだ747Jは締め付けられるような苦しみはあのVRからだと確信した。

あの漆黒の“影”からの、異様な力による干渉。

やがてそれは747Jの体を完全に動作不能にさせ、頭部センサーも機能不全に陥らせた。
このままでは、動力中枢が堕ちるのも時間の問題だろう。
「あ゙ぁあ……が……」
(し、死ぬ……死ぬ……!!!)
ノイズで霞む視界に黒と紅を捉えながら、747Jの意識は徐々に遠くなっていった。

…どくん…
「!」
だがその意識は、体内の奇妙な感覚により引き戻された。

何かが、体内に侵入してくる……。

「ぅ゙……っ?」
そしてそれは段々と747Jの深層に流れてくる。
熱い。体の中が溶けてしまいそうな程、熱い。
そして、747Jの頭の中に妖しい声が響く。

『オチロ……カゲヘ……カゲトナリテ……ワレト……』

「ぐあぁぁぁっ!!」
その声は、747Jの中心を焼き、侵食していく。
凄まじい痛みを伴ったが、その痛みには、同じ位激しい甘美な疼きが伴った。

『オチロ……ワレノモトヘ……』

ピシィィィ……
「あ゙ぁぁあぁ!!」

痛い痛い痛い痛い痛いぃっ!

気持ち良い気持ち良い気持ち良いぃっ!!

「あ゙……あ…ぁ…!」
紅い光が体内を犯す度に、747Jの体は自由を奪われ壊れていき、思考は悦楽に満ちていく。
(中に…沢山……侵入ってくる!!?)
747Jの思考回路は大きな恐怖と快感と痛みに何も出来なくなっていた。
漆黒のVRに中から犯され破壊される行為を、もはや止めることも出来ない。
「あ゙!あ゙ぁ!!」

『カラダガウズクノダロウ……?オチロ……ココマデ……ワレノモトマデ……!』

ピシッ、ピシィィィィ……!
「ァぐぅぅっ!!」
747Jの体内の熱が一気に高まる。
思考は限界だった。どこもかしこも壊れてしまっていくのに、痛みも恐怖もどこかへ飛んでいた。
ただ、“影”に喰われる快感が、巨大な波となって747Jを襲う。
(死ぬ!?逝く!?イク!!)
「あっ!ぅあはぁぁぁあぁっっ!!」

…絶頂。747Jの状態はまさにそれであった。
悦びの嬌声を上げて崩れ落ち、それきり、747Jは動かなくなった。

『――…』

「…考えられない。あれだけのシャドウからのハッキングを受けて汚染率ゼロとは……」
(……あ…?)
「とにかく、戦闘緩衝地帯まで誘導せねば面倒だ。私が行こう」
(………誰だ?)
「!…気が付いたか…。君だな?MARZは。或いは、己が身を偽る者かもしれないが」

―――漆黒に犯された後に見たその姿は、酷く眩しい純白だった。

「私はクリアリア・バイアステン。白虹騎士団の者だ。君を戦闘緩衝地帯まで護衛する」

To be continued…?


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