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元ネタ不明 『空』

某所用に書いてみたんですが明らかにスレ違いなのでお借りします。
ビデオ棚奥のほうにしまっちゃってください。

_月_日_曜日
窓硝子の外の季節が一つ変わる間もないくらい早く怡の病は進行している。

「怡、今日は久しぶりによく晴れてますよ。」
「……きれいな蒼だな。まるで私の故郷の空のようだ。」
果物を剥く手を止めて視線を合わせる。
「貴方の故郷…ですか?」
怡が自分の事を話すのは滅多に無い。
そうだと目礼で返した怡は懐かしむかのように目を細めて言葉を続けた。
「何もない貧しい村だ。少しの水と少しの畑、あとは岩だ。
けれど…空はとてもきれいだった。母の背中で見た空の色だ。」
幼い怡が家族に抱かれて仰ぎ見る空、どんなに美しいのだろうか。
「白行、見に行くか。」
「え?」

驚いて見返した私の手を怡は握った。痩せて硬い、けれど優しい手だ。
「……私で、いいんですか?」
「お前がいいんだ、白行。お前と一緒に私の国、私の家族のところに帰りたい。」
「ありがとうござい…ます…。嬉しい。」
「どうした、なぜ泣く。私は幸せそうなお前を抱えて帰って母に見せるんだ。
笑え。いつものように笑ってくれ。」
そっと解けて濡れた頬を撫でた怡の指。それから静かに抱き合い触れるだけの口接けをした。
「すぐに手配いたしましょう。この天気は暫く続くそうだから旅立ち日和です。」
「ああ、そうしてくれ。お前に任せる。」
長い息を吐いて彼はまた寝台に身体を横たえた。
「少し、疲れたな。」
今度は私が怡の手を握ると彼は静かに目を閉じた。

「怡?もう、眠ってしまいました?」
視界が揺れる。世界の輪郭がぼやけてしまう。
けれどそれを拭ってくれる優しい指はもう動かないのだ。
「怡……もう一度…抱いてくれませんか…」
握った掌が冷たくなっていくのを感じながら、明日なんて永遠に来なければ良いと思った。


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