元ネタ不明 唐突に始まり…
更新日: 2011-07-18 (月) 23:07:00
大嫌いだった。
どんな厚遇でもどんな逆境でもいつでも飄々と受けとめて立ち向かっていく意志の強さも
(こっちが悩みながら一生懸命取り組んでいる隣で、涼しげな顔でそれをやってのける)
優しさの欠片も見せない優しさも
(キツイ言葉を投げかけて馬鹿にしながら差し出した手の温もり)
すべてを受け止めて諦めたように笑うその笑顔も
(ぎこちないくせに目が離せない)
流れるようなダンスも
(心の底から踊るのが楽しくて堪らないと叫んでいる顔)
目障りだった。
椿を見ていると、苦しさを表に出さずに必死に仕事と向き合っている自分が
馬鹿みたいに思える。
こんな奴、いなくなればいいのにと願った。
だけど気がついてしまった。
誰に褒められるよりも、誰に甘い言葉を貰うよりも、誰とセックスするよりも、
ただ椿の声を聞いているときが一番幸せだということを。
大嫌いだったはずなのに誰よりも気になる存在になっていた。
笑っちゃうのはそれからで、いくつも同じ仕事をこなしていくうちに
ファンの間でも氷河期とか冷戦とか言われていたのが嘘みたいに
俺と椿の距離は埋まっていった。
それがどんなに幸せだったか椿はきっと一生知らない。
知らなくていい。
「瀧田」
椿の声。
「寝てんの?」
低いけど心地良い声が耳をくすぐる。
答えないでいると椿が近付いてきた。
あ、今テーブルに手を置いた。ソファがぎしっとなる。
「……襲うぞ」
ぼそりと耳元で囁かれて飛び上がると目の前で椿はけらけら笑う。
あ、今、なんか幸せ。
こうやって椿が俺に向かって笑うことなんてもうないと思っていたから。
「メイクさんが探してた」
椿は笑いを収めると顔を近づけてきた。
相変わらず綺麗な目だな。
ぼんやり見惚れると、椿の瞳の中の小さな俺が幸せそうな顔していて笑える。
結局椿の唇が離れていくまで椿の顔を見ていた。
「瀧田?」
「おはよ」
「遅っ」
お約束のツッコミを入れると椿は気が済んだのか隣に座る。
「ほら、仕事仕事。瀧田修一になりなさいって」
優しい声。
綺麗な手が俺の頭を撫でる。
「うん。いってきます」
「いってらっしゃい」
ほら。
振り返れば椿は笑っていてくれる。
- 医龍 -- 2011-07-18 (月) 23:06:59
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